駄人であるゆえに

物語調であらゆる人間を書くのが好きなのです。
あとは考え事が止まりません。

奇人(3)

図書館を出ると、夕日が沈みかけている。あれを見ると空腹に加え、なんとなしに帰路を急ぐ気になってくる。一日を通して、こうも外的な要因に精神を操られるようでは、自分の思考なんてものは空想に過ぎないのではないかという疑惑も湧いてきた。そのような時は決まって、彼の遊びが始まるのである。周囲をキョロキョロとしながら舌打ちを頻繁に行ってみては、環境に与えた影響を分析する。その近くを行く人間は、どうやらこの挙動に何らかの不信感を抱いているようだ。その不安そうな表情を見ては満足する。同時に、外と内が相互関係にあることを再認識しては安心するのである。


思考を繰り返しながら駅までの運動を続けていると、先のほうに道路の真ん中でうずくまる人がいる。自分以外にも酔狂な人間がいたものだと感心しながら近づいてみるとどうも様子がおかしい。中年くらいの小太りな男である。呼吸が浅く、発汗が目立つ。いかにも苦しそうな印象で、胸の辺りを抑えている。嗜む程度の医学知識で推察してみると、どうやら循環器系の故障のようにみえる。その様子を立ち止まって、周りの状況を含めて観察すると、不思議なことに、傍を通り過ぎるものは、全くこの人間をいないように扱って行き交う。意思のない自動的な物体はこう行動するものかと考察すると、急にこの男に構ってみたくなった。


中年が話すことのできない状況であることは容易に判断できた。この様子だと、視界に捉える前からうずくまっていたようだ。携帯電話を持っていなかったため、救急車を呼ぶ目的で中年のズボンをまさぐり、拝借した。早速電話をしてみると、色々と中年の現在の状況を聞かれて指示をしてきた。その時点で大分面倒になってきたが、乗りかかった船だと思い任務を全うすることにした。一通りの報告、受けた指示を忠実に行った後は、ただ救急車を待つ運びとなった。その間にも、この光景を横目に歩く人間は、ぱらぱらといる。しかし、立ち止まる人間はいない。その反応を見ていると、道路にうずくまる中年と世話をする青年がいかなる映像を周囲に作り出し、どんな印象を与えているのかに興味を持った。ふと聞いてみる気になったので、次に傍を通る者にどう思うかと問うた所、大変ですねと返ってきた。さも他人事のようであり、実際に他人事なのである。そういった意見を聞くと、自分が愚かな人間に感じてきて、急に空腹が気になりだした。


あれこれ考えている間に、サイレンを大きな音で鳴らしながら救急車が到着した。忙しく降りては、大きな声を出す隊員に面をくらい、動揺をしている内にいつの間にか車に一緒に乗せられてしまった。中年の処置に忙しい者達を尻目に、これがもし人身売買の誘拐車両であっても、自分は挙動不審のまま乗せられてしまったのではないかと不安に思った。近くに治療が可能な病院があったようで、10分程度で到着した。いつまでこれに付き合わないといけないのかと、空腹に手助けされた苛立ちを感じながら院内に同行することになった。












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